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    すずめをさらってにがした話
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      またものすごく間があいてしまった。
      けれどわたしの文章を楽しみにしてくれているという大切な
      人がいるので、またぼちぼち書いてみる。

      先週の金曜日、会社帰りに、雀を助けた。
      御池通を直進する車にぎりぎりよけられながらも、
      ころころころと、茶色い毛玉が激しく鳴きながら転がっていた。
      今にも轢かれそうな毛玉が、鳥のヒナだとわかったとき、不思議なもので、
      見事なタイミングでわたしの身体は道路に走り出していた。
      本当に切迫した状況のとき、ふだんではありえないような、力が発揮されるものだ。わたしの場合は、反射神経とタイミングを見計らう力が発揮されたわけだけれど。(つまり、ふだんいかに反射神経が劣り、車をよけて横断するのが苦手かってことだ。)

      雀のヒナはわたしの手から逃れようとさらに暴れたけれど、どうにか
      片手につかんで歩道に戻ることはできた。

      それまでは、よかったのだと思う。わたしはヒナをたしかに救出した。

      しかし問題なのは、そのあとのわたしのことで、
      帰宅ラッシュで自動車が激しく行き来する御池通、歩道には散歩の犬や、自転車がたえまなく走る。ここにこのヒナを放っていいのか。また車道に飛びでれば、今度こそ轢かれてぺしゃんこになってしまうんじゃないのか。
      という、不安がどっとおしよせて、手の中の小さい命を、置いていく勇気がでなかった。それでも、1,2分はすこし歩道で様子を見たのだ。母親の雀が迎えにくるかもしれないと思ったからだ。しかしヒナは飛ぶのがまだへたらしく、居酒屋のドアにばしん!とぶつかってへなへなとゴミ箱の隙間に落ちてしまった。それを見たわたしは、やっぱり我慢ができなくて、そのままヒナを連れて帰ってしまったのだ。

      わたしは会社から自宅まで、片道2時間弱はかかる。その間にも、たぶん電車の冷房からくる寒さから、ヒナはどんどんと弱っていくのが見てとれた。
      雀を拾ったが死なせてしまった、という話はよく耳にする。
      でも、それだけは嫌だった。とにかく、とにかく、死なせない。
      それだけを必死で考えていた。
      同じ死ぬにしても、たまたま車に轢かれたならばしかたない。
      たまたま野良猫に捕らえられたならしかたない。
      けれどわたしが拾ったから死んだというのでは、しかたないとは言えない。
      鳥が好きなのだ。大好きな生き物なのだ。すごく個人的な理由だ。
      でも、これだけ鳥が好きだ好きだと言っていて、この手の中で死なせることがあるか。
      せったいに生かせてみせる。
      電車のなかで、ぴい、と鳴かれるたびにソワソワしながらも、
      ずっとそんなことを考えていた。


      今はインターネットがあって、本当に便利な時代だ。
      図書館がしまっていようと、本屋にすずめの本がなかろうと、
      インターネットで「すずめ 保護」と検索すればあっというまに
      いろいろなアドバイスが見られるのだから。とにかく急いで熟読した。
      そして段ボールで借りの住まいを作り、湯たんぽを下にかました。
      100円均一で入手した鳥のえさをミキサーで粉砕して湯で溶き、食べさせた。
      食べさせた、と書いてしまえば簡単だが、ヒナはヒナであるから、
      まだ自分でえさをついばむという行為さえ知らないのだ。
      親鳥に喉の奥までつっこんでもらえて初めて食べるということができる。
      しかしある程度成長しているヒナのため、人は怖いという認識があるので、
      そう簡単に口を開けてはくれない。
      割り箸の先をへら状に削ったものを二本つくり、一本でくちばしをこじ開けて、そのまま割り箸あるいは指をかませておく。その間にもう一本のへらにえさを乗せ、こじあけた口の隙間からえさのへらをのどへ突っ込むのである。
      かわいそうだし、なかなかうまくいかないし、こぼすし、えらく大変な作業だった。
      こうして、えさは2,3時間おきに与える。
      湯たんぽも、さめないようにこまめに温めなおす。
      一日保護するだけでも、片手間にはできないような、
      こまやかで根気のいる作業だった。

      翌日になって、このヒナは右足が利かないということに気がついた。ぷらん、と力なく、神経が通っている様子ではない。色も変色しはじめていた。
      足がこうなったから車道に転がっていたのか、車と接触でもしてこうなったのか、わからないが、つかえない右足を補うように、立つときは右の翼を広げて地面につけて身体を支えていた。

      生きていけるのか。


      動物病院に電話をかけたが、なおすのは難しいと言われてしまった。
      さらに、成鳥になるまで育てれば、大丈夫だとも、言われた。

      けれども3時間おきにえさを与えられるような暮らしの者は
      わたしの家にはいなかったし、会社に連れていくとも考えたけれど、
      わたしの会社には猫が10匹以上暮らしていて、いくら気をつけても
      食べられてしまう可能性はぜったいに拭えない。

      足の怪我を認めるまでは、一刻もはやく拾った場所にヒナを返そうと
      考えていた。というのも、人の手を恐がり、数メートルは飛ぶことができるヒナというのは、「巣立ちヒナ」といって、巣立ち間近のヒナなのだ。
      親鳥が見守るなか、飛ぶ練習をしているヒナということであって、
      地面にいたとしても、必ずそばで隠れて親が見ているというのだ。
      それを、落巣したかわいそうなヒナと誤解し、保護してしまうことはよくあることだという。そしてうまく育てられずに死なせてしまうのだ。野鳥の会も、この誤認保護の防止をよびかけている。
      ということは、今回のことがあってわたしもはじめて知ったことで、
      場所が危険すぎるという理由であったにせよ、わたしがしたことは誤認保護
      にまちがいないと、拾った夜には気づくことができた。
      だからこそ、はやく、元の場所、親鳥のもとへ、返したかった。

      短い時間のあいだで、考えて、出した答えはやっぱり元の場所に
      返すということだった。足は怪我をしている。でもわたしにはそれがなおせない。育てていく自信はない。ならば自然にまかせたい。
      野鳥ははじめから自然のものだ。自然との付き合いかたにはいろいろな意見や考えがあるだろうし、今回のわたしのとった行動にも賛否両論あるとは思うけれど、わたしが思う最善のことは、自然の生き物は自然の力、運命、さだめに、なるべくまかせようということだった。車道で轢かれても、それは町中に巣を作った親鳥のもとに生まれた命のさだめかもしれないし、猫に捕らえられるなら、猫の栄養になるという自然界のピラミッドにかなうさだめだろう。


      日曜日の朝になった。
      ヒナはとてもとても元気で、早朝から、チュンチュンと鳴いている。
      親鳥を呼んでいる。
      雀の親鳥は、4,5日以内ならば我が子の声を覚えていて、いなくなっても、その間は探し続けているということだった。2日しか経っていないのだから希望はあった。
      ペットボトルの湯たんぽを底に入れた紙袋にヒナの段ボールをのせて、新聞紙とタオルで蓋をして、会社へ行くより早い時間に電車に乗る。
      たまたまサッカーのコンフェデ杯を見るために早起きしていた恋人も、電車で合流してくれた。小さな乗客を足下にのせて京都へ向かう。

      日曜日の朝とあって、御池通の車通りは格段に少なかった。1分間に1,2台通る程度だ。散歩の犬も自転車も、通りはするけれどごくわずか。
      拾った黒門通の銀杏の木の下に、段ボールの蓋をわずかにあけておき、
      2メートルほど離れたところでじっと見守った。
      周囲の鳥の声に反応して、例のチュンチュンと繰り返しながら、ヒナが外へ出た。
      車道のほうを向いているので、気が気でない。うめきのような不安の小さな声が、わたしからも恋人からもぼそぼそと発せられる。
      いざとなったら車をとめに走っていこうと、荷物をおいて動ける体制をとる。
      ヒナが飛ぶ。
      幸い車のなかった瞬間の御池通を、地上100センチで横断した。
      向かいの民家のドアに着地した、と思ったら歩道にくずれおちるように降りる。
      歩道のど真ん中に、ちょこんと、丸い毛玉がある図だった。
      いま自転車がきたら、いま犬がきたら、と、心配でしかたがなかった。
      「行こう、もうあとはどうなっても自然のことやから」とわたしは不安から逃げるように言って荷物をまとめようとした。恋人が、え、と驚く。
      「でも、お母さんすずめ、こんかったら、あのこ…」
      「そうやけど、そうやけど、もう見てられへん…」
      チュンチュンと、毛玉が大きく鳴いている。

      その数秒後のこと。
      わたしたちの背後、南のほうから。一羽の雀が飛んできて、真向かいの電線に留った。ヒナのいるほうをじっと見下ろしている。次の瞬間には、雀はヒナのところにいた。とんとん、とん、とその周りを跳ねたあと、確信したようにヒナの嘴に嘴をあててキスをした。
      そのあとは、もう、早かった。
      母親がすこしはばたくと、間髪入れずにヒナもそのあとに続いてはばたいた。
      母親は木の上に飛んでいくが、ヒナはうまくとべずに根元に落ちてしまう。
      親は素早く戻ってきて、ヒナの顔をみつめては、また飛ぶ。さっきよりは低い垣根へ。ヒナは垣根までは飛ぶことができた。散歩の大きな犬が通る。ヒナは垣根でじっとして、親はすばやくさらに高いところへ逃げた。犬が過ぎるとまた素早く親は戻ってきて、またヒナを誘導していく。ヒナは落ちそうになりながらも必死であとを飛ぶ。
      そうして、姿は見えなくなった。


      よかったなあ、と感激を伝えてくれる恋人のよこで、わたしは
      そのよかったの一言さえ言えずに泣いていた。
      それでもなんとか笑顔でハイタッチ。

      湯たんぽのペットボトルもタオルも段ボールもつぶしてゴミ箱に捨てて、
      わたしたちは軽くなった肩で朝ごはんを食べにいくために歩いた。
      命はほんとうに重かった。そして母親の愛は深かった。
      自然ってすごいと陳腐だがそんな気持ちが胸をみたした。
      この一週間、すずめの声がするたびに鼻がつうんとした。



      生きよ、生きよ。
      わたしも生きる。




      | nikki | 22:40 | comments(0) | trackbacks(0) |
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